情報リテラシーを学び、実践し、振り返る 〜立てよ、薬剤師〜

立てよ、薬剤師プロジェクト

はじめに

論考をAHEADMAP会報誌秋号に寄稿しました!!

 

以下、序文を一部掲載;

[はじめに ~意思決定は誰が行うのか~]

エビデンスや論文と聞くと、ある種のアレルギー反応を示す方に出会う。これは私の勝手な見解である が、論文情報というのは、実はかなり曖昧なものである。しかし、このような曖昧な情報を、絶対的な、 抗えないような、あるいは融通の利かないような存在に祭り上げてしまっていることこそが、ある種のアレ ルギー反応に繋がっているのかもしれない。もしそうなのであれば、これは誤りであると断言できる。

まず臨床判断における4要素(図1)を見て欲しい。この図から、患者のおかれた環境や臨床状態、 患者の意向、そしてエビデンスを統合し “臨床経験や専門知識を用いて” 最終的な臨床的判断を 行うよう推奨していることが分かる。また(図1)の論文の著者は次のような言葉を残している。

− Evidence does not make decisions, people do −

R. Brian Haynes

つまり、論文情報は4つの輪の1つでしかなく、患者を取り巻く状況によって、その表情を変え、あくま で意思決定は患者と、それを支える医療従事者が行うのである。以下、仮想症例で考えてみよう。

コレステロール値が基準値より少し高いが、他の既往歴や家族歴の無い患者。患者本人は薬を 使いたくないのだが言い出せず、担当医がスタチン系薬剤を処方した。そして、その結果、コレステロー ル値は正常値範囲内に納まったが、血糖値が高くなってしまい2型糖尿病と診断され、血糖降下薬を 追加されてしまった。この仮想症例に触れてどう感じただろうか?極端な例で情報が少なく分かりづら いだろうか?ここで言いたいこと、それは薬のリスク/ベネフィットを評価しようということである。

スタチン系薬剤の使用が新規の糖尿病発症リスクを増加させることが過去に示唆されている。1)実 は糖尿病発症リスク増加について添付文書にも記載されている薬剤もある。しかし、どの程度のリスク なのかは示されていない。より正確に薬剤のリスクベネフィットを評価するためには、やはり一次情報で ある論文に触れる必要があると言わざるを得ない。

以上の情報を知っているか否か、論文の妥当性を評価できているかによって、治療方針は変わって いたかもしれない。定期検診のみの経過観察も選択肢の1つとしてあり得たのではなかろうか。


(以下の画像をクリックすると全文ダウンロードできます!)

aheadmap.jimdo.com 

 

奇しくも、ある方と一部内容がかぶりました。その方、「るるー主」さんのブログがこちら

ph-lelouch.com 

EBM実践を広めるには?

私は常々、日常業務に Evidence-Based MedicineEBM)実践を組み込みたいと考えています。

 

そして医療従事者以外にも EBM実践を広めるためには、つまり一般化するにはどのようにしたら良いかと考えております。

 

双方向性の情報リテラシー向上?

それには「情報を発信する側」と「情報を受け取る側」、双方のリテラシー向上が肝であるという考えに至りました。

 

そもそもリテラシー literacy”とは何か?

以下、デジタル大辞泉から引用

リテラシー(literacy

1 読み書き能力。また、与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力。応用力。
2 コンピューターについての知識および利用能力。→コンピューターリテラシー
3 情報機器を利用して、膨大な情報の中から必要な情報を抜き出し、活用する能力。→情報リテラシー

 

情報リテラシーの定義

また上記3の情報リテラシーの定義 1989年に確立されています(クリックで別記事にとびます)。

個人的に感じていることですが情報発信を行っていく中で、自然と情報を受け取る際にも内容を吟味できるようになりました。まだまだ修行中の身ではありますが、継続することで新たに見えてくる景色があるのではないかと期待しております。

つまり受け取る情報を吟味するためには、一次情報に当たり、自分なりに咀嚼し、情報を発信し続けて行くことが肝要ではないか、

そして情報リテラシー取得に繋がるのではないか、ということです。

あとは初めの一歩を踏み出すかどうか、、、立てよ、薬剤師!!

 

 

-Evidence never tells you what to do-

 




 

薬はどのくらいで安定した効果が得られ、どのくらいで体内から消失しますか?(JAGS. 1976; Charge)

背景・疑問

薬はどのくらいで安定した効果、つまり定常状態に達するのか。そして、どのくらいで体内から消失するのか。

結論

Ritschel(リッチェル)理論1) に基づくと、定常状態に達する薬の場合、半減期の 5倍の時間で反復投与により定常状態に達する。従って、服薬中止により半減期の(4〜)5倍の時間で体内から消失する。

定常状態に達する薬は、下記の式で 3以下を示す。

 

 

f:id:noir-van13:20171025001758p:plain

 


実例:アムロジピン口腔内崩壊錠の場合

健常成人が アムロジピン口腔内崩壊錠 5mg3)(1日 1回)

服用の場合、

 

  投与間隔 = 24 (時間)

  半減期 t1/2 = 36.5±4.2 (時間)

 

STEP 1:定常状態に達する薬であるか?

 投与間隔 24 / 半減期 36.5 = 0.657…

    ≦ 3であるためアムロジピンは定常状態に達する薬。

 

STEP 2:どのくらいで定常状態に達するか?

  36.5 × 5 = 182.5

  ➡️ 7.6041…(182.5 / 24)

    つまり毎日服用すると 7.6日で定常状態に達する。

 

 

申請時の資料ではアムロジピン錠 2.5mgを 14日間反復投与した場合、プラトーに達したのは 6日目以降(参考文献3を参照)。

 

 

ちなみに上記の式で解決できない薬剤もあります(membrane approach など)。こちらについては、そのうち記事にしたいと思います。

急いでいる方は参考文献の2を読んでみると良いかと思います。

 

 

参考文献・資料

1.Ritschel WA. Pharmaco-kinetics approach to drug dosing in the aged. Journal of the American Geriatrics Society 24; 344-354: 1976. 

2.山本雄一郎  薬局で使える実践薬学(通称:鈍器)日経BP社 (2017/3/2) ISBN-10: 4822239616.  ISBN-13: 978-4822239619

3.ノルバスク錠  添付文書(最終アクセス日:2017年10月23日)

 

 

 

-Evidence never tells you what to do-




 

本年もありがとうございました!2018年もよろしくお願いします!

本ブログにご訪問くださり誠にありがとうございます。

論文情報を薬剤師業務に活かせるのではないかと思い、書き始めたわけですが、なんやかんや色々やってるうちに2017年も年の瀬です。

来年はもう少し記事更新の頻度を上げていきたいと考えていますが、どうなることやら。

仕事もプライベートも充実させたいですし、薬剤師としてレベルアップしていきたいとも考えています。

本年は2016年以上に出会いや別れ、サプライズが多く、哀しみだけでなく非常に実りのある年でした。

印象的な出来事としては、AHEADMAP会報誌へ寄稿できたことです。とても嬉しかったです。

気の向くまま、想いの向かうまま、取り留めのないことを綴っているような本ブログを、2018年もどうぞよろしくお願いいたします!

根本真吾

-Evidence never tells you what to do-




SGLT2阻害薬は 2型糖尿病患者の全死亡リスクを低下できますか?〜Systematic Review & Meta Analysis〜(Acta Diabetol 2017; Charge)

Effects of SGLT-2 inhibitors on mortality and cardiovascular events: a comprehensive meta-analysis of randomized controlled trials.

Monami M et al.

Acta Diabetol. 2017 Jan;54(1):19-36. doi: 10.1007/s00592-016-0892-7. Epub 2016 Aug 4.

PMID: 27488726

プロトコール文献

以下のサイトを参照:

http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.asp?ID=CRD42015029573.

私的背景

2017年7月23日に開催された EBM-Tokyoに参加し、上記の Systematic Review & Meta Analysis論文を読んだ。その際、RevMan5という Meta-Analysisの実施および作図を行えるソフトを使用し、本論文を吟味している先生に出逢い、触発され、自身でも試したくなった。再度、批判的吟味しつつ結果をまとめたい。

結論

本論文の結果は 2015年 NEJMに掲載された EMPA-REG OUTCOMEの結果に引っ張られているため新規性は無く有用性も低い。SGLT-2阻害薬の有効性については依然として controversial。


PICOT

P: 2型糖尿病

I : Sodium-Glucose coTransporter 2 inhibitor (SGLT-2阻害薬)の使用

C: プラセボあるいは SGLT-2阻害薬以外の薬剤

O: principal    — 全死亡、心血管死

  secondary — 心筋梗塞、脳卒中

T: 予防・治療、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析


批判的吟味

使用した文献データベースは何か?

MEDLINE(Pubmed)、Food and Drug Administration(FDA)、European Medicines Agency(EMA)、www.clinicaltrials.gov Web site(clinicaltrials.gov)

検索語は?

SGLT-2 inhibitor(dapagliflozin, empagliflozin, canagliflozin, ipragliflozin, ertugliflozin, luseogliflozin)

研究の種類は?

Randamized Clinical Trial(RCT)

参考文献まで調べたか?

不明(それっぽい記載はあるが明確な記載無し)

個々の研究者に連絡を取ったか?

本文に記載はないが、恐らく取っていない(論文 Fig.1参照)

出版されていない研究も探したか?

探した(FDA、EMA、clinicaltrials.gov)

同じ研究が複数報告されているか?

本文中に記載はないが、論文 Fig.1より排除されていると判断した

英語以外で書かれた論文も探したか?

英語のみ(プロトコール論文参照)

研究は網羅的に集められたか?(出版バイアスは無いか?)

概ね集められていると判断した(本文ファンネルプロットを参照)

集められた研究の評価はどのように行われたか?(各研究の評価は妥当か?)

2人の研究者が独立して行い、意見が分かれたときは3人目が判断した

評価基準は明確か?(Risk of Biasの評価基準は?)

明確(Cochrane Collaboration’s toolを使用)

研究の異質性は検討されたか?

I2 統計量を用い検討されているが表現が古い。P値が 0.1より小さい(つまり異質性が低い)か否かで表現されている。近年では I2=50%のように表現されることが多い

最終的に残った研究数は?

71件、うち統合されたのは 32件(zero event studyを除外)

結果は統合されたか?

統合された。基本的には Rondam-effect modelを使用

Funding sources/sponsors

None

Conflict of interest

Matteo Monami has received speaking fees from Bristol Myers Squibb, Eli-Lilly, Merck, Novonordisk, Merck, and Takeda; and research grants from Bristol Myers Squibb.

Ilaria Dicembrini has no conflicts of interest.

Edoardo Mannucci has received consultancy fees from Merck and Novartis; speaking fees from Astra Zeneca, Bristol Myers Squibb, Merck, and Novartis; and research grants from Merck, Novartis, and Takeda.


結果は?

・全死亡 MH-OR =0.70 [95%信頼区間 0.59〜0.83], p < 0.001

・心血管死 MH-OR =0.43 [0.36〜0.53], p < 0.001

・心筋梗塞 MH-OR =0.77 [0.63〜0.94], p < 0.01

・脳卒中 MH-OR =1.09 [0.86〜1.38], p = 0.50

 

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Fig.1  全死亡のフォレストプロット(RevMan 5 | Cochrane Community を使用し作成:計 32件の RCTを統合)

 

 

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Fig.2  統合された 32件の RCTを用いたファンネルプロット(論文中には 71件の RCTの結果が記載されている)

 


コメント

Fig.1をみてみると Weight、つまり統合された結果に対する各研究の重み付けは Zinman (1が 77.1%と一番多い。この研究が EMPA-REG OUTCOMEである。つまり本論文の結果は、1つの大規模な RCTに引っ張られているだけであり、新規性は乏しい。

 

そして EMPA-REG OUTCOMEを取り除いた結果が以下である。

 

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Fig.3  EMPA-REG OUTCOMEを取り除いた全死亡の統合結果(計 31件)

 

EMPA-REG OUTCOMEを統合してもしなくても異質性は 0%だが、取り除いたことでオッズ比が 1をまたいでしまった(OR =0.79, 95%CI 0.56〜1.11)。

 

1件の RCTの結果のみ(今回の場合は EMPA-REG OUTCOME trial)では薬剤効果を判定するのは難しいと考えられる。つまり現時点では SGLT-2阻害薬使用により全死亡のリスクは、オッズ比で 0.56〜1.11であったということ(SGLT-2阻害薬は使わないようにしましょう!とは言っていません。誰に使うかは非常に悩ましいところ)。そしてオッズ比を使用しているところが肝だと感じる文献です。リスク比やハザード比と異なり、オッズ比はリスクの直接的な判断ができません。オッズ比からリスク比に換算する必要があると考えられます(→準備中です)。

 

また本論文の作成過程が “正確に” 行われたのかについては非常に疑問です。引用先の参考文献の番号が異なっていたり、参考文献には記載のない著者名が本文中に記されていたり、principal outcome以外の異質性が記されていなかったり、集めてきた研究の Risk of Bias評価が誤っていたり等々、てんこ盛りです。本論文の筆頭著者は、糖尿病研究ではかなり有名な人物のようですが、非常に残念でなりません。Fundingは無いようですが COIには注意したい。

 

 

-Evidence never tells you what to do-




 

手の洗い方にも指針がありますか? (WHO 2009)

私的背景

インフルエンザや急性上気道炎の患者も減ってきて、ひとまず薬局内が落ち着きかけた時、ふと気になったことがある。診断や薬物治療にガイドラインがあるように “手洗い” にもガイドラインがあるのだろうか?

 

厚生労働省はインフルエンザの予防啓発に以下のようなポスターを使用(2016年11月発行)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/poster28.pdf

 

マメな手荒いと、飛沫感染予防の為にマスク等で咳をまき散らかさないことである(ちなみに『うがい』は数年前に効果が薄いという研究結果を基にポスターから削除された)。

World Health Organization (WHO) が 2009年に手指衛生ガイドラインを発表

原文:

http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/70126/1/WHO_IER_PSP_2009.07_eng.pdf

 

日本語訳(発行元:新潟県立六日町病院):

http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/70126/12/WHO_IER_PSP_2009.07_jpn.pdf

→ 日本語での要約があるのは非常にありがたい。

手の洗い方

以下、一部引用:

擦式アルコール製剤

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→ 手ぴかジ◯ルとか息子とやんわり使用していたけど、ビタビタに掌いっぱいにした方が効果が高いみたい。意外。

石鹸と流水

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→ アルコール製剤の時も思ったけど、めちゃくちゃ時間かかる

その手は安全ですか?

これだけ丁寧に洗えば、確かに手の汚れは落ちるかもしれない。

ガイドライン使用あるいは短時間の手洗いと、長時間の手洗い(例えば 30秒以上とか)とを比較した研究あったら良いのにな。Open-label になるだろうから、バイアス排除とエンドポイントの設定に気をつけないとトンデモ研究になりそうだ。あと Setting も multicenter で、、、などなど費用対効果が悪そうなことを考えている。




 

かかりつけ薬剤師というコトバ

はじめに

はじめに断っておくと、2016年4月1日からはじまった制度の説明ではありません。

私の内の言葉の定義を記します。

と、言いつつ制度内容にも触れます。

私の考える “かかりつけ薬剤師”

ある先生のコトバにかなり影響を受けている私、その私が考えている “かかりつけ薬剤師” とは、

『患者さんが困ったときに顔が浮かぶ薬剤師』

『なんでも相談しやすい薬剤師』

『処方箋がなくても話をしたい薬剤師』

です。

寄り添うという言葉の持つ意味

上記のような文字を羅列すると、患者に寄り添いすぎでは?という意見も出そうなものです。

私が言いたいのは『まず寄り添ったっていいじゃないか』という事です。

 

個々人が正しいと信じる医療行為あるいは介入は個々人の考えで、各々のアタマの中にあることです。

これは治療を受ける患者とは、そもそも切り離されていると考えた方が自身の考えを俯瞰するのに適していると私は考えます。

 

その上で長期的な薬の服薬サポートはもちろん、不定愁訴があれば処方提案もしますし、飲めない薬の管理もする。

まず寄り添わずして不定愁訴を聞くことができるのでしょうか?

寄り添いながらも俯瞰する。一旦は受け止め、その後に向き合ったって遅くはないのでは?と私は言いたい。

 

これは患者さんの困っている事に対してのソリューション、コンプライアンスやアドヒアランスの向上が、医療あるいは医療行為を行う上で良いであろうと考えているアタマの中の私が先行しているからに他なりません。

かかりつけ薬剤師制度

2016年4月から新たな制度として “かかりつけ薬剤師” が明文化されました。

 

最初は、この制度自体に疑問を抱いていました。

なぜ明文化されたのか?

なぜ今まで行ってきたことが調剤報酬として評価されるのか?

薬剤師は仕事をしてこなかったではないかという意見の根拠は何か?

薬局数を半分(あるいはそれ以下)にするという構造は何か?

 

そして、こうも考えるようになりました。

『この疑問は解消するのではなく、常に自分に問いかけながら仕事しよう』と。

 

2年に1度の診療報酬改定と調剤報酬改定、次回は2018年度、介護報酬改定との同時改定です。かかりつけ薬剤師に求められることがさらに増えるのかはわかりません。

本当は現場から声を発していき、それが制度として盛り込まれる形にしたいものです。

診療報酬制度が保つ力とワタシ

制度がどう変わろうとも薬剤師としてやるべきことは変わらないのでは?という意見も時々見かけますが、ヒトはそんなに強くないよと言いたい。

ちょっとしたコトバに同調することもあれば、自身の考えを疑うこともある。つまり制度改定という変化に影響を受ける生き物なのです。

 

制度というルールの中で薬剤師一人一人が日々変わっていないのであれば、それは怠慢であり退化です。

現状維持はヒトが日々変わっているから出来るのであって、以前の私と今の私、未来の私の間に同一性はないのです。

 

自身のアタマの中の薬剤師像を追いかけながらも常に俯瞰し、正しいと信じる医療を実践するためにエビデンスを探し、目の前の患者に対し最適であろうと信じる医療は何かと自問自答していくのが、私の考える『かかりつけ薬剤師』です。

 

そして、この考えはEBMという行動指針によって実現可能ではないかな?と考えています。

ポリファーマシーは必要悪?(BMJ 2013:Free)

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BMJ. 2013 Nov 28;347:f7033. doi: 10.1136/bmj.f7033.
Wise J

PMID:24286985

私的背景

ポリファーマシーというコトバが一人歩きしているのは言うまでもない。個人的には “5剤以上使用している” ただの状態と捉えている。

2013年に BMJへ掲載された『Polypharmacy: a necessary evil』という何ともキャッチーな論文に出逢ったので読んでみた。

ポリファーマシーは必要悪?

以下、本文

ポリファーマシーというコトバが最初に医学文献に登場したのは 150年以上前である。この問題には緊急に対応する必要があると King’s Fund※のレポートにて報告されている(King’s Fund. Polypharmacy and medicines optimization: making it safe and sound. 2013. https://www.kingsfund.org.uk/)。
 

イングランドにおける 1人あたりの平均処方薬剤数は、2001年の 11.9から 2011年の 18.3と、過去 10年間で実に 53.8%増加した(Health and Social Care Information Centre. Prescriptions dispensed in the community, statistics for England, 2001-2011. 2012. http://content.digital.nhs.uk/catalogue/PUB06941)。

 

またスコットランドの 300,000人以上の患者を対象とした調査では、1995年から 2010年の間に 5種以上の薬剤を服用する患者の割合が 12%から 22%に増加し、10種以上では 1.9%から 5.8%に上昇した(see below Figure)
高齢者の場合、この数値はさらに高く、65歳以上の患者 6人に 1人が 10以上の薬剤を飲んでいるThe rising tide of polypharmacy and drug-drug interactions: population database analysis 1995-2010. – PubMed – NCBI

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Proportion of patients in Scotland receiving more than one drug, 1995 and 2010.

(Figure:本文より引用)

 

ポリファーマシーの増加は、高齢化とフレイル人口の増加によって益々推進されており、その多くは複数の長期的状態を有している。加えて、脳卒中や急性心筋梗塞などの重大なイベントリスクを軽減するために、複雑な予防レジメンが処方されている。

「ポリファーマシーは必要悪、つまり必要不可欠である」と Martin Duerdenは言った。彼は一般開業医であり、かつ King’s Fundレポート「Polypharmacy and Medicines Optimisation: Making It Safe and Sound」の共著者でもある。彼は「これ、つまりポリファーマシーにはいつも悩まされていましたが、今ではポリファーマシーが現代医学の一部でなければならないと承知しています。しかし我々は多剤併用療法を実施する上で、最も効果的かつ害の少ない薬剤使用を確実にするための努力が必要です」と述べている。

 

King’s Fund レポートによると個々の患者におけるポリファーマシーとは、複数の薬剤を同時に使用することと定義しており、それは適切にも問題(不適切)にもなり得る。

最良のエビデンスに従って処方され、最適化された薬剤が使用された時、それは適切なポリファーマシーであり、平均余命を延ばすだけでなく患者の QOLをも向上できる。
しかし不適切なポリファーマシーは、患者のコンプライアンスや QOLに影響を及ぼすだけでなく、相互作用や有害な薬物反応リスクを増加させる可能性がある。King’s Fund レポートには、医師、看護師、薬剤師のための多併存疾患とポリファーマシーの管理に関するより良い訓練が求められている。一般的な訓練コンサルタントは、複数の条件を有す患者が薬物治療をレビューするために充分な時間を割けるよう長くすべきであると述べている。個々の薬剤が他の薬剤との関連において、それぞれの薬剤が適切にまたは不適切に処方されているかどうかを考慮する必要がある。

ポリファーマシーという言葉に対する正式検討の必要性
10年前に 4つあるいはそれ以上の薬剤使用を閾値とし、この状態は高頻度に検討されてきたが
、現在この状態は一般的である。しかし処方薬剤の数が増えるにつれて、処方ミス、高リスク処方、薬物有害事象の危険性が増しているという明確なエビデンスが今や明らかとなっている。
一般的な訓練(診療により不適切なポリファーマシー是正)としては、10種類以上の薬剤を定期的に服用している患者と、4種以上の薬剤を服用している患者に対し薬物相互作用の可能性など、別のリスク要因がある患者の処方を見直すことを、実用的なより良いアプローチとしてあげている。慢性疾患の有病率は増加しており、多くの患者はいくつかの症状を自覚している。

 

各々の患者が各国のガイドラインに従って治療される場合、複雑な薬剤カクテルを処方されることになる。 Keele 大学にて一般診療と疫学の上級講師を務める Umesh Kadamは次のようにコメントしている。「ポリファーマシーは、高齢者だけでなく慢性疾患患者にとっても問題である。慢性疾患ガイドラインは複数の薬物を推奨しているため、患者はかなりの薬物を処方されるが、これと同時に患者はとても混乱させられる可能性がある」。

 

「現在のケアモデルにおいて、我々は複数の薬剤処方に体系的なアプローチをとっていません。したがって多併存疾患を有す患者において、ポリファーマシーは益々重要な問題となっています。」と彼は付け加えている。また、King’s Fund レポートでは多併存疾患とポリファーマシー(問題)を有している患者が参加する臨床試験のさらなる実施を要求している。

 

Martin Duerdenは BMJに次のように語っている。「多併存疾患は 65歳を超える患者にとっては一般的なことです。しかし我々の研究(臨床試験)のほとんどは単一の疾患に基づいており、複雑な病的状態の患者を排除する傾向があります。我々のエビデンスは非常に珍しい患者に基づいています。」

 

他の推奨事項としては、糖尿病、冠動脈性心疾患、心不全および慢性閉塞性肺疾患のような、一般的に共存する長期的なコンディションを考慮したエビデンスに基づくガイドラインの開発である。さらに、一般開業医 general practitioners(GPs)の成績目標を定めた品質と成果の枠組みは、単一疾病の治療改善ではなく、いくつかの長期的な(疾病)状態を有す患者のニーズに重点を置くよう見直されるべきである。


リバプールのエイントリーにある大学病院の Ageing and Chronic disease 研究所の
John Wilding教授は BMJに次のように語っている。「ポリファーマシーは(疾患)全てに対する(治療)目標と、全て(の疾患)に対するガイドラインの意図しない結果です。例えば、患者が 15種類の薬剤を使用していることをあなたが知る前に、すでに彼らは糖尿病登録簿、冠動脈性心臓病登録簿、そして慢性閉塞性肺疾患登録簿に登録されている可能性があります。」

患者の負担を最小限に抑えるには?
King’s Fund レポートは、増分処方または “処方カスケード” に対して警告している。これは臨床医が処方した 1つの薬剤によって症状が引き起こされたことを認識せず、この有害作用を解消する為に別の薬剤を処方することを指す。
John Wilding教授は次のように述べています。「もし患者が血糖値を適切に管理していなければ、実際にはあまりにも多くの薬剤が処方され、適切に服用していないために別の薬剤が投与されることがあります。薬剤を服用することで、どのくらいの負担を有しているのか患者から引き出すことが重要です」


King’s Fund レポートによると、医薬品使用において多くの人々が最適なベネフィットを超えた、つまり過剰な医療を受けていた。治療を開始する時期について多くのアドバイスがあるが、治療を中止する決定を支援するための情報やエビデンスについては、はるかに少ないと指摘している。

長期的にのみ利益をもたらすであろう処方薬を一部の患者が依然として服用している場合がある(漫然投与)、これは人生の終わりに向かう上で特に懸念事項である。

 

Martin Duerdenは BMJに次のように語っています。「一般的に、医師が薬剤処方を止めることはあまりありません。代わりに薬剤を加える傾向があります。特に高齢のフレイル患者の場合、薬剤が真に有益であるかどうかを評価することが重要です。例えば、身体機能の低い老人ホームの患者は、数年以上生活することはないでしょう(つまり寿命は短いでしょう)が、スタチンを服用し続けても恩恵を受けることは恐らく無いでしょう。」

彼は「患者とその家族との間で全ての薬剤について服用(継続)あるいは使用中止について議論することが重要だ」と付け加えた。

 

King’s Fund レポートは患者の全体的ニーズを誰も考慮していない可能性があるため、医師の専門性向上に対処する必要があると報告している。つまり多併存疾患を有す患者は包括ケアをコーディネートできる一般臨床医にアクセスする必要があると説いている。また患者は疾患特有のクリニックを受診するのではなく、自身のケアコーディネーターである臨床チームによって、1度の診察で全ての長期的コンディションを見直されるのが理想である。

 

King’s Fund レポートは、患者の治療について情報に基づいた選択をすることができるように患者を関与させることが重要であると指摘している。多くの患者が不愉快な雑事として多数の薬剤を服用していることが分かり、これは QOLを損なう可能性がある。

いずれにしても患者は、処方医が意図する薬を服用しない場合が多く、処方薬剤の多くは未使用または無駄になる。投薬レジメンは可能な限りシンプルにするべきであり、1日1回または 2回投与するのが理想的である。

 

Martin Duerdenは “たとえこれが妥協を伴っても処方計画をどのように簡略化できるかを医師が見なければならない” と述べた。例えば、スタチンは就寝前に摂取するのが最善ですが、患者は他の薬剤とともに日中にスタチンを服用することが望ましいかもしれない。
King’s Fund レポート医薬品管理に関する実務的留意点を提供している。例えば医師は、患者が何を摂取しているか知っていると決めつけてはいけない。ハーブ製品や OTC薬を含む全ての持参薬について患者に訪ねるよう助言している。


Wildingは BMJに次のように語っています。「機会が生じる度に薬剤の数を合理化しようと試みることは、すべての医師における責任です。特定の薬剤処方理由は、患者によっては長く忘れられることがあり、場合によっては(処方)元の臨床医にも忘れられていることがあります。」

コメント

ポリファーマシーや処方カスケード、臨床試験結果の限界、ガイドラインの問題点、コンコーダンス等について考察されていた。処方薬剤の適正化は正に Evidence-based medicine(EBM)であると感じた。

 

本論文では医師と患者を中心に話が展開されていたが、薬剤師を含むコメディカルの協調は不可欠であり、これが医師の負担軽減、患者の不定愁訴発見等に繋がるのではないかと個人的には考えている。診断に基づき処方箋を発行する医師に、負担や責任が多くのしかかっている状況にあると感じているが実際はどうなのだろうか。患者に薬を直接渡している我々、薬剤師に責任が無い訳が無い。

 

現在ガイドラインは、推奨ではなく絶対的な治療方針のように扱われているが、ガイドラインに記載の無い困難な状況を打破するためには、論文情報が役立つことは言うまでもない。なぜならばガイドラインは一つ一つの臨床研究を総合的に評価、つまり論文化された多くの情報を基に構成されており、エキスパートコンセンサスを経て発行されているからだ。情報がまとまっている反面、世に出るまでに時間がかかり、情報が古くなっている可能性は大いにあり得る。

 

話は変わるが厚生労働省はファーマシー・テクニシャン導入を検討しており、そうすることで薬剤師をより専門的な業務に従事させようと考えているようです(右に倣えな気もしますが)。患者のための薬局ビジョンでも明文化されていましたが、薬剤師が求められていることは対人業務であって対物業務ではない。もしも対物業務に従事することに対して違和感を感じているのであれば、EBMを実践してみるのも一つの手です。

 

私は殊更に、あるいは積極的に “EBMを実践しましょう” とは言いません。しかし現状、薬剤師の武器の一つとして論文情報の活用、EBM実践を完全否定するのは難しいと感じています。EBMの 4つの輪や 5つのステップを意識することは、個別化医療の実現、PDCA サイクルを回すことであり、そこには予め用意された正解はありません。

 

情報は日々アップデートされています。昨日まで信じて行ってきた行為が、実は古いものであり、最悪の場合誤っていることもあります。論文を読み、これまで培ってきた知識や経験と合わせ、現在行える最適な医療とは何か、と今一度自身に問いかけてみてはどうでしょうか。

補足

King’s Fund:イングランドにある健康とケア改善を目的とする非営利団体。King’s Fund Report を刊行している。

ポアソン分布とRule of Three(統計学ワード)

私的背景

薬剤の副作用について Rule of Threeという法則がある。関連するポアソン分布についても調べたのでまとめておく。

結果

Rule of Threeとは

「薬剤市販後調査で確認できるような重篤かつ稀な事象の生起に関する法則」である。

生起確率が 100(1-α)% 片側信頼区間の上限のときの期待度数を下表に示す。

n \ α 0.1 0.05 0.025 0.01
10 2.056718 2.588656 3.084971 3.690427
100 2.276278
2.951305
3.621669 4.500741
1,000 2.299936
2.991250
3.682084 4.594583
10,000 2.302320
2.995284
3.688199 4.604110
100,000 2.302559
2.995728
3.688811 4.605064
1,000,000 2.302582
2.995728
3.688873 4.605160
Poisson 2.302585
2.995732
3.688879 4.605170

n=number、例数  α=alpha、危険率

表1. 参考文献1より作成

 

Senn(文献2)とUchiyama(文献3)は、Rule of Three(rule of three for zero events)を absence of evidence is not evidence of absence と表現し、次のような形で説明している。

 

Ro(Rule of Three)とは、人調べて 1度も事象が観測されなくても、他の n 人中の 3人に事象が観測される可能性がある。

 

また文献1の著者は、新たなルールとして R’oを提案している。これによると、

n 人調べて 1度も観測されなかった事象が別の n 人で 4人以上に観測された場合には事象の発生確率が増えた

と判断するようです。

ポアソン分布とは

「ある期間に平均 λ回起こる現象が、ある期間に X回起きる確率の分布」のようで、各発生回数における生起確率を算出できるようです。またランダムに起きる事象との相性が良く、逆を言えばランダムに起きず、何かの因子に強く影響を受けるようなアウトカムの算出においては、使い方に気をつける必要がある。

結論

Rule of Threeとは、例えば 100万人調べて 1度も事象が観測されなくても、他の 100万人中の 3人に事象が観測される可能性があるとする法則である。

つまり、ある新薬の臨床試験で重篤な副作用が観察されなかったからといって安心はできない。市販後調査でやっと検出できるような副作用もあるためである。

また Rule of Threeは α=0.05のとき、そして n=100以上のときによく近似し、例数 100万でも近似していた。これは Poisson分布からも導出でき、よく近似していた。従って zero eventsであっても Poisson分析によりリスクを推定できる。

新しかろう良かろう、新しいから使ってみようという思考について、再認識と再考を求める法則ではなかろうか。

参考文献

  1. Iwasaki M et al. Statistical Inference for the Occurrence Probability of Rare Events – Rule of Three and Related Topics – 計量生物学; 26 巻 2 号: p.53-63. 2015
  2. Senn S. Statistical Issues in Drug Development. Chichester; John Wiley & Sons: 1997
  3. Uchiyama A. Management of safety information from clinical trials. DIA Tutorial “CIOMS Initiative for Safety Information” February 18 2005

 

 

-Evidence never tells you what to do-




 

95%信頼区間とは何ですか?(統計学ワード)

⌘ 背景

今更ながら “95%信頼区間” という言葉の定義を自分なりに理解したい。

⌘ 結論

95%信頼区間とは、95%の確率で母集団の平均を含む区間である。

 

 しかし、より正確には、仮に同じ臨床試験を 100回施行した場合、そのうち 5回くらいの結果は真の値を含まない平均値(点推定)を示す、ということである。

⌘ 解説

薬の効果と副作用を検討する際、世界中の全人類が臨床試験に参加することは不可能である。年齢や既往歴等の特徴で参加対象を絞ったとしても、その特徴を有す全員が参加することもまた現実的ではない。

 

 ではどうするのか?その問いの一つとして区間推定があげられる(以下のイメージ図を参照)。

 

 

f:id:noir-van13:20171109001735p:plain

(点推定と 95%信頼区間のイメージ図)

 

 

 ある薬剤Aについて、評価項目(アウトカム)の発生数(イベント数)を計算しサンプルサイズ(標本数)を予め設定することで、全体(母集団)の平均値を推定しようとする試みである。サンプルサイズは過去の類似研究の結果を基に算出することが多い。

 

 臨床試験の結果は、ハザード比やリスク比、オッズ比 etc. で示される。

 

 例えば、ある臨床試験のアウトカムにおけるハザード比 =1.21 が点推定値であり、その 95%信頼区間 0.78-1.62が区間推定値である。

 

 つまり、ある臨床試験に参加した集団(標本)の平均値は 1.20であり、母集団(全人類)の平均値、つまり真の値を含んでいそうな区間が 0.78-1.62の範囲内に 95%の確率で存在している、ということである。

 

 より正しくは真の値に対して重きを置くので、100回施行したうちの 5%は真の値を含まない、という表現の方が良いのかもしれない。

 

 上記の解説はややこしいので「ある試験を 100回やったら 95回は同じ結果になるよ」で何ら問題ないと個人的には思う。

⌘ 参考資料

1. いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 第1巻 まずは統計アレルギーを克服しよう! ISBN-10: 4904307240、ISBN-13: 978-4904307243(発売日: 2010/4/10)