インフルエンザ検査の是非⑤【検査キットの感度・特異度・ベイズの定理】

背景

前回は尤度比について解説しました。

インフルエンザ検査の是非④【尤度比】

この “尤もらしさ” を活用するために必要となるのが検査キットの感度特異度,そして事前オッズです。

そして、これらの情報をもとに疾患の罹患確率を算出する方法論が “ベイズの定理” です。

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インフルエンザ検査の是非④【尤度比】

背景

前回、陽性的中率・陰性的中率について解説しました。今回は “尤度比” について解説します。

前回の記事はこちら↓

https://noirvan13.xsrv.jp/?p=1566

尤度比って何?

尤度比(Likelihood Ratio, LR)とは、

ある疾患のなりやすさや起こりやすさ、つまり 尤(もっと)もらしさを表す指標

の一つです。

ちなみに陽性尤度比が高いと 検査をする価値が高い つまり検査した方が良いことになります。詳細については次回以降に解説します。

尤度比にも陽性と陰性がある?

確率である尤度(なりやすさ、起こりやすさ)は、比率として0~1で表されることが多いです。 検査結果が陽性の場合を

陽性尤度比(Positive Likelihood Ratio, +LR)、

陰性の場合を

陰性尤度比(Negative Likelihood Ratio, -LR

と呼びます。

陽性尤度比は、 感度/(1-特異度)

陰性尤度比は、 1-感度)/特異度

で算出します。

つまり陽性尤度比は、”疾患ありの人が検査陽性となる確率” を “疾患のない人が検査陽性(偽陽性)となる確率” で割ったのものです。

一方、陰性尤度比は、”疾患ありの人が検査陰性(偽陰性)となる確率” を “疾患のない人が検査陰性となる確率” で割ったのものです。

それぞれの値を算出するために、前回同様に表1を使用します。

    疾患あり 疾患なし 合計
検査で陽性判定 105 45 150
検査で陰性判定 55 105 160
 合計 160 150 310

表1. ある検査で陽性あるいは陰性と判定された人数

陽性尤度比 =(105/160)/(1-105/150)=2.1875

陰性尤度比 = (1-105/160)/(105/150)=0.49107…

まとめ

尤度比は、感度・特異度から算出しているため、疾患の頻度や有病率とは関係しない値。

そして、より臨床現場に近い診断を行うため尤度比を活用するためには、事前オッズ・事後オッズが必要となります。

簡単に説明すると、今、目の前の患者が仮にインフルエンザである確率はどのくらいなのか?という見立てが事前オッズです。そして事前オッズに尤度比を乗じることで事後オッズが算出できます。

次回はいよいよインフルエンザ検査の曖昧さについて明らかにしていきます。

インフルエンザ検査の是非③【陽性的中率・陰性的中率】

背景

ここまで検査キットの精度(accuracy)について解説してきました。

今回は、より現場で役立つ “陽性的中率・陰性的中率” について解説していきます。

的中(適中)率って何?

読んで字の如く、疾患の陽性・陰性が当たる確率です。

前回の記事でご紹介した “感度・特異度” は、そもそも疾患を有している人、疾患のない人が対象となっています。

インフルエンザ検査の是非②【感度・特異度】

しかし実際の現場では、例えばインフルエンザなのか、風邪症候群なのか、はたまた別の疾患なのかわからない状況です。そこで的中率の登場というわけです。次のような表を書いてみると、より理解しやすいと思いますので、こちらの表1を使って解説していきます。

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インフルエンザ検査の是非②【感度・特異度】

背景

前回インフルエンザ検査についてシリーズものを組みました。↓こちらが前回の記事。

インフルエンザ検査の是非①【導入編】

今回は、検査キットへの理解を深めるために “感度・特異度” についてご紹介します。

感度・特異度って何?

検査キット全般に言えることですが、感度特異度という言葉があります。インフルエンザを例に説明すると、実際にインフルエンザに罹っているかどうか検査したときの検査キットそのものの指標です。精度(accuracy)と表現することが多いと思います。

少し詳しく説明すると 感度(sensitivity) とは、

インフルエンザ患者に対し、インフルエンザ検査で陽性判定が出たときに、本当にインフルエンザに罹っているであろう患者の割合

です。仮に100人のインフルエンザ患者がいたとして、検査で80人陽性ならば感度は80%ということになります。つまり20%は偽陰性(本当はインフルエンザに罹患しているのに見逃される危険性)ということになります。

感度は、しばしば文献で ‘True Positive Rate’ と表現されます。

ただし現実世界では、インフルエンザに罹っているか否かを検査するわけですので対象がインフルエンザに罹患しているのかは未知数のはずですよね。

次に 特異度(Specificity) についてですが、これは感度の真逆の定義です。

つまり、インフルエンザに罹っていない人に対し、インフルエンザ検査で陰性判定がでたときに、本当にインフルエンザに罹っていないであろう人の割合

です。したがって仮に100人の非インフルエンザ罹患者がいた場合、検査で80人陰性ならば特異度は80%であり、残りの20%は偽陽性(本当はインフルエンザに罹患していないのに、インフルエンザ患者とされてしまう危険性)ということになります。こちらは ‘True Negative Rate’ と表現されます。

先ほども触れましたが、インフルエンザに罹患しているのか否かは検査前では未知数ですので、有用な情報とは言えませんね。

ただ、検査キットの精度を理解する上でどちらも重要な言葉ですので一度説明しました。

まとめ

感度が高いということは、ある疾患の罹患者を陽性として判定しやすいということ。

つまり感度が高い検査キットで陰性と判定されれば、陰性である確率が高い。

特異度が高いということは、ある疾患に罹患していない人を陰性として判定しやすいということ。

つまり特異度が高い検査キットで陽性と判定されれば、陽性である確率が高い。

次回は、より現場で有用となる指標、陽性的中率・陰性的中率・尤度比についてご紹介します。

検査キットがインフルエンザを診断する?いいえ、医師が診断します(厚生労働省ホームページより)

⌘ 背景・疑問

インフルエンザの季節になると、患者さんは必ずと言っていいほど、「インフルエンザの検査をして欲しい」と言います。

なかには「検査してもらえなかったのに薬だけだされた」と、オセルタミビル(タミフル®︎)とアセトアミノフェン(カロナール®︎)が処方され『???』となっている方がいます。

インフルエンザの診断に検査キットは必須なのでしょうか?

 

 

⌘ 結論

本ブログのタイトルの通りです。診断は医師が行います。決して検査キットが決めるのではありません。

 

 

⌘ 根拠

理由は大きく分けて2つありますが今回は、そのうちの1つをご紹介します。

 

▶️厚生労働省のホームページ「政策について」の項にインフルエンザの記載があります。

これによると、医師及び獣医師はインフルエンザ患者と診断した場合、『法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない』とされています。

そして届出の基準として以下の記載があります。

 

▶️症状や所見からインフルエンザが疑われ、かつ、表.1のすべてを満たすか、表.1のすべてを満たさなくても表.2を満たすことにより、インフルエンザ患者と診断。

 

表.1:届出のために必要な臨床症状(4つすべてを満たすもの)

突然の発熱
高熱
上気道炎症状
全身倦怠感等の全身症状

 

表.2:届出のために必要な検査所見

検査方法: 迅速診断キットによる病原体の抗原の検出
検査材料:  鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液

 

▶️つまり、検査キットは必須ではありません。また上記の4徴候が認められなくとも今後、症状が悪化しインフルエンザの兆候を示しそうな場合、医師はインフルエンザと診断します。

 

▶️いかがでしょうか。少なくとも検査キットが必須でないことは国が示しています。ただ私個人としては「〇〇が言っているから、そのようにしましょう」というのは、あまり好きではありません。もう一つの理由については、今後ブログで紹介していきます。

 

-Evidence never tells you what to do-




 

ピロリ菌検査の感度と特異度はどのくらいですか?(日本ヘリコバクター学会ガイドライン2015)

以前の記事の続きです。

ピロリ菌感染診断法における各検査の感度・特異度を以下の表にまとめました。

やはり尿素呼気検査の感度と特異度は高いですね。

表1. ピロリ菌感染診断法の感度・特異度

 診断法  感度(%)  特異度(%)
 迅速ウレアーゼ試験

除菌前 1)

除菌後 2)

 

85~95

61~100

 

95~100

91~100

 鏡検法

除菌前

     HE 染色 3,4)

      ギムザ染色 3)

 

 

92~99

88

 

 

89~100

98

 培養法 5)  68 ~ 98  100
 尿素呼気試験 6-9) 95~98  95~97
 抗体測定法

除菌前

     血清抗体 10,11)

     尿中抗体 10,11)

 

 

88~100

85~96

 

 

50~100

79~90

 便中抗原測定法

        除菌前 12)

   除菌後 13-15)

 

96~100

75~90

 

97~100

96~100

(日本ヘリコバクター学会ガイドライン2015から引用)

⌘ 参考文献

  1. Ricci C et al.Diagnosis of Helicobacter pylori: invasive and non-invasive tests. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2007; 21(2): 299-313. [PMID:17382278]
  2. Vaira D et al.How useful is the rapid urease test for evaluating the success of Helicobacter pylori eradication therapy? Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol. 2007 Nov; 4(11): 600-1. [PMID: 17925801]
  3. Laine L et al. Prospective comparison of H&E, Giemsa, and Genta stains for the diagnosis of Helicobacter pylori. Gastrointest Endosc. 1997 Jun; 45(6): 463-7. [PMID: 9199901]
  4. MacOni G et al. Is routine histological evaluation an accurate test for Helicobacter pylori infection? Aliment Pharmacol Ther. 1999 Mar; 13(3): 327-31. [PMID:10102966]
  5. Cutler AF. Diagnostic tests for Helicobacter pylori infection. Gastroenterologist. 1997 Sep; 5(3): 202-12. [PMID: 9298375]
  6. Gisbert JP et al. Review article: 13C-urea breath test in the diagnosis of Helicobacter pylori infection — a critical review. Aliment Pharmacol Ther. 2004 Nov 15; 20(10): 1001-17. [PMID: 15569102]
  7. Kato M et al.Clinical studies of 13C-urea breath test in Japan.  J Gastroenterol. 1998; 33 Suppl 10: 36-9. [PMID:9840015]
  8. Ohara S et al. Studies of 13C-urea breath test for diagnosis of Helicobacter pylori infection in Japan. J Gastroenterol. 1998 Feb; 33(1): 6-13. [PMID: 9497214]
  9. Ohara S et al. The UBiT-100 13CO2 infrared analyzer: comparison between infrared spectrometric analysis and mass spectrometric analysis. Helicobacter. 1998 Mar; 3(1): 49-53. [PMID: 9546118]
  10. Kato M et al. Clinical usefulness of urine-based enzyme-linked immunosorbent assay for detection of antibody to Helicobacter pylori: a collaborative study in nine medical institutions in Japan. Helicobacter 2000; 5: 109-119. [PMID: 10849061]
  11. Murakami K et al. An evaluation of the performance of a novel stick-type kit for rapid detection of Helicobacter pylori antibodies in urine. Clin Lab 2011; 57: 481-487. [PMID: 21888011]
  12. Sato M et al. Characterization and usefulness of stool antigen tests using a monoclonal antibody to Helicobacter pylori catalase. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27 Suppl 3: 23-28. [PMID: 22486867]
  13. Chey WD. Proton pump inhibitors and the urea breath test: how long is long enough? Am J Gastroenterol 1997; 92: 720-721. [PMID:9128344]
  14. Shimoyama T et al. Applicability of a rapid stool 17 antigen test, using monoclonal antibody to catalase, for the management of Helicobacter pylori infection. J Gastroenterol 2011; 46: 487-491. [PMID: 21264478]
  15. Shimoyama T et al. Comparison of monoclonal antibody-based stool antigen tests to determine the results of Helicobacter pylori eradication therapy. Scand J Gastroenterol 2010; 45: 1431-1434. [PMID: 20695725]

 




 

ピロリ菌の検査方法にはどんなものがありますか?

ピロリ菌の検査方法には、内視鏡(昔でいうところの胃カメラ。厳密にいうと違う)を使用するものと、使用しないものがある。

 

⌘ 内視鏡を使用した検査方法(侵襲的)
①迅速ウレアーゼ試験
②鏡検法
③培養法

⌘ 内視鏡を使用しない検査方法(非侵襲的)
④抗体測定
⑤尿素呼気試験
⑥便中抗原測定

 

▶️個人的には④と⑤の使用頻度が高いと感じている。患者さんの負担が軽いからかな?と思ったら、尿素呼気検査については感度と特異度が共に 95% 以上あるようなので、これが根拠であると考えられる(→ピロリ菌検査の感度と特異度はどのくらいですか?)。保険の同時算定も可能なようです。

 

▶️各検査の大まかな費用は下記サイトが分かりやすいかも。筆者は薬局勤務なので詳細はわからない。

 

リンク先→ 血液検査でピロリ菌の有無を判定!

検査


▶️ちなみにですが胃カメラと内視鏡は別物です。

▶️内視鏡は、正確には「上部消化器内視鏡検査」と呼ばれ、経口あるいは経鼻で使用されます。現在では、ほぼ全てが内視鏡であると考えられます。なぜなら胃カメラはリアルタイム画像の取得が出来ないからです。

▶️検査中に自身の胃壁を見たことがある人は、間違いなく内視鏡検査です。ただ、胃カメラの方が伝わりやすく、呼びやすいため現在でも内視鏡のことを “胃カメラ” と呼称していると考えられます。気になる方は Wikipediaを参照。