ポアソン分布とRule of Three(統計学ワード)

私的背景

薬剤の副作用について Rule of Threeという法則がある。関連するポアソン分布についても調べたのでまとめておく。

結果

Rule of Threeとは

「薬剤市販後調査で確認できるような重篤かつ稀な事象の生起に関する法則」である。

生起確率が 100(1-α)% 片側信頼区間の上限のときの期待度数を下表に示す。

n \ α 0.1 0.05 0.025 0.01
10 2.056718 2.588656 3.084971 3.690427
100 2.276278
2.951305
3.621669 4.500741
1,000 2.299936
2.991250
3.682084 4.594583
10,000 2.302320
2.995284
3.688199 4.604110
100,000 2.302559
2.995728
3.688811 4.605064
1,000,000 2.302582
2.995728
3.688873 4.605160
Poisson 2.302585
2.995732
3.688879 4.605170

n=number、例数  α=alpha、危険率

表1. 参考文献1より作成

 

Senn(文献2)とUchiyama(文献3)は、Rule of Three(rule of three for zero events)を absence of evidence is not evidence of absence と表現し、次のような形で説明している。

 

Ro(Rule of Three)とは、人調べて 1度も事象が観測されなくても、他の n 人中の 3人に事象が観測される可能性がある。

 

また文献1の著者は、新たなルールとして R’oを提案している。これによると、

n 人調べて 1度も観測されなかった事象が別の n 人で 4人以上に観測された場合には事象の発生確率が増えた

と判断するようです。

ポアソン分布とは

「ある期間に平均 λ回起こる現象が、ある期間に X回起きる確率の分布」のようで、各発生回数における生起確率を算出できるようです。またランダムに起きる事象との相性が良く、逆を言えばランダムに起きず、何かの因子に強く影響を受けるようなアウトカムの算出においては、使い方に気をつける必要がある。

結論

Rule of Threeとは、例えば 100万人調べて 1度も事象が観測されなくても、他の 100万人中の 3人に事象が観測される可能性があるとする法則である。

つまり、ある新薬の臨床試験で重篤な副作用が観察されなかったからといって安心はできない。市販後調査でやっと検出できるような副作用もあるためである。

また Rule of Threeは α=0.05のとき、そして n=100以上のときによく近似し、例数 100万でも近似していた。これは Poisson分布からも導出でき、よく近似していた。従って zero eventsであっても Poisson分析によりリスクを推定できる。

新しかろう良かろう、新しいから使ってみようという思考について、再認識と再考を求める法則ではなかろうか。

参考文献

  1. Iwasaki M et al. Statistical Inference for the Occurrence Probability of Rare Events – Rule of Three and Related Topics – 計量生物学; 26 巻 2 号: p.53-63. 2015
  2. Senn S. Statistical Issues in Drug Development. Chichester; John Wiley & Sons: 1997
  3. Uchiyama A. Management of safety information from clinical trials. DIA Tutorial “CIOMS Initiative for Safety Information” February 18 2005

 

 

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95%信頼区間とは何ですか?(統計学ワード)

⌘ 背景

今更ながら “95%信頼区間” という言葉の定義を自分なりに理解したい。

⌘ 結論

95%信頼区間とは、95%の確率で母集団の平均を含む区間である。

 

 しかし、より正確には、仮に同じ臨床試験を 100回施行した場合、そのうち 5回くらいの結果は真の値を含まない平均値(点推定)を示す、ということである。

⌘ 解説

薬の効果と副作用を検討する際、世界中の全人類が臨床試験に参加することは不可能である。年齢や既往歴等の特徴で参加対象を絞ったとしても、その特徴を有す全員が参加することもまた現実的ではない。

 

 ではどうするのか?その問いの一つとして区間推定があげられる(以下のイメージ図を参照)。

 

 

f:id:noir-van13:20171109001735p:plain

(点推定と 95%信頼区間のイメージ図)

 

 

 ある薬剤Aについて、評価項目(アウトカム)の発生数(イベント数)を計算しサンプルサイズ(標本数)を予め設定することで、全体(母集団)の平均値を推定しようとする試みである。サンプルサイズは過去の類似研究の結果を基に算出することが多い。

 

 臨床試験の結果は、ハザード比やリスク比、オッズ比 etc. で示される。

 

 例えば、ある臨床試験のアウトカムにおけるハザード比 =1.21 が点推定値であり、その 95%信頼区間 0.78-1.62が区間推定値である。

 

 つまり、ある臨床試験に参加した集団(標本)の平均値は 1.20であり、母集団(全人類)の平均値、つまり真の値を含んでいそうな区間が 0.78-1.62の範囲内に 95%の確率で存在している、ということである。

 

 より正しくは真の値に対して重きを置くので、100回施行したうちの 5%は真の値を含まない、という表現の方が良いのかもしれない。

 

 上記の解説はややこしいので「ある試験を 100回やったら 95回は同じ結果になるよ」で何ら問題ないと個人的には思う。

⌘ 参考資料

1. いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 第1巻 まずは統計アレルギーを克服しよう! ISBN-10: 4904307240、ISBN-13: 978-4904307243(発売日: 2010/4/10)




 

2型糖尿病患者における血清尿酸値は死亡リスク増加に影響しますか?(Atherosclerosis 2017; Charge)

On the non-linear association between serum uric acid levels and all-cause mortality rate in patients with type 2 diabetes mellitus.

Lamacchia O et al.

Atherosclerosis. 2017

DOI: 10.1016/j.atherosclerosis.2017.03.008. Epub 2017 Mar 9.

PMID: 28334637

背景・疑問

血清尿酸値の値が腎疾患や死亡リスクに関与することが報告されている。しかし、因果関係は依然として不明である。

2型糖尿病患者における無症候性高尿酸血症の治療は有益であるのか?抄録のみ読める論文であるが読み進めた。

結論

2型糖尿病患者における血清尿酸値は、4.717.17 mg/dLの範囲より高くても低くても死亡リスクを上昇させた。いわゆるJ字型(あるいは U字型)現象が観察された。


抄録

【背景と目的】

高レベルの血清尿酸(Serum Uric Acid: SUA)は、一般集団における死亡リスクの増加と関連している。つまり尿酸レベルの低下は、糖尿病患者において有用である。

本研究の目的は、2型糖尿病患者における SUAと全死亡との関連およびその機能的形態を研究することである。

【方法】

T2DM患者を対象とした 3つのコホートを解析した(Gargano Mortality試験 n=698、Foggia Mortality試験 n=431、Pisa Mortality試験)。エンドポイントは全死亡率。

【結果】

SUAレベルと全死亡率との間の最も信頼性の高い関係は二次関数的であった。このモデルは SUA三分位によってよく近似された。

三分位の第1(本研究のグループ内で尿酸値が一番高い群)および第3(尿酸値が一番低い群)は、第2(中間層)に比べ死亡リスクが高かった。

・第1 vs. 第2

ハザード比(HR) =1.34, 95%信頼区間(CI)=1.07〜1.68

・第3 vs. 第2

HR =1.61, 95%CI =1.29〜1.99

実際にプールされたサンプルから作成された擬似的サンプルにおいて、SUAと全死亡率との最良の関係は二次的であった。

再帰的分割回帰ツリー分析において、死亡リスクの高い2つのサブグループを対象に解析した。すなわち中間 SUAレベルの患者(尿酸値4.16〜7.28 mg/dl)と比較して、SUAレベルが7.28 mg / dl 以上および SUAレベルが4.16 mg / dl 未満で死亡率が高かった。

本試験は SUAレベルと死亡率との間の J字型関係に関するさらなるエビデンスを提供する。

【結論】

血清尿酸は、2型糖尿病患者の全死亡率と直線的に関連していなかった。臨床および公衆衛生上では、そのような関連性は J字型と呼ばれる。


PECOT

  • 2型糖尿病患者
  • 血清尿酸値の層別化
  • 無し
  • 全死亡
  • 害、3つのコホート研究を解析

批判的吟味

 追跡期間は?

抄録からは不明

脱落はどのくらいか?

抄録からは不明

マスキングされているか?

抄録からは不明

交絡因子の調整は?

抄録からは不明


コメント

2型糖尿病患者における、尿酸値と全死亡率との間には J-curve現象がみられた。当該患者においては尿酸値が上がり過ぎないよう、逆に下げ過ぎないようコントロールすることの重要性が示唆された。あくまで観察研究であり、因果関係ではなく相関関係が示された点であることは念頭に置く必要がある。

さらに抄録からは批判的吟味できなかった。また調整しきれない交絡因子もあると考えられる。個人的には三分位というところが気になる。

血清尿酸値について私の知る限りでは、血圧や血糖値、脂質と比較し、疾患との関連性や治療効果については非常に曖昧である。

高尿酸血症のみでの治療効果は限定的であり、痛風発作の既往がない、無症候性高尿酸血症であれば放置していても問題ないという認識。しかし、以前から尿酸高値は腎疾患や心房細動等の心血管疾患との関連性が示唆されている。一方、in vitroにおいてではあるが尿酸の酸化ストレス軽減効果も示唆されており、まだまだ議論の分かれるところ。

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EBM 実践における4つの輪(Evidence based practice における患者と医師の選択 BMJ 2002:Free)

Physicians’ and patients’ choices in evidence based practice. – PubMed – NCBI

Physicians’ and patients’ choices in evidence based practice.

BMJ. 2002 Jun 8;324(7350):1350. Editorial

Haynes RB, et al.

PMID:12052789

(Figure.1 本文より引用)

“Evidence does not make decisions, people do”

 

⌘ 結論

エビデンスは意思決定をしない、(意思決定は)人々が行うのだ” というコトバと Figure.1 が全てである。Figure.1 より、エビデンスは 4 つの輪の内の一つであり意思決定には関わるが大部分を占めているわけではないことが分かる。

⌘ 本文の翻訳

Evidence based medicine (EBM) に向けられた批判、それは臨床家の手を拘束し、患者による最適ケア決定に至るための選択肢を奪う点にある。

実際に保険・衛生研究を実施するには多くの障壁がある。しかし概念的には臨床家の手を縛り、患者の選択(権)を奪うことは無い。むしろ患者の嗜好は、EBM の初期モデルに組み込まれており、その重要性は 2000 年頃に改訂された Figure. 1 で強調されている。

この図における臨床的判断では;

第 1 に、何が間違っていて、どのような治療オプションが利用可能であるかを確立するために、患者の臨床的および身体的状況を考慮(把握)する必要がある。

第 2 に、治療オプションは選択肢の有効性、実効性、効率性に関する臨床エビエンスによって調整される必要がある。

第 3 に、臨床医は各オプションに関連するであろう患者の嗜好性および可能性のある行動(彼あるいは彼女がどのような介入を受け入れる準備ができているかという点で)を考慮しなければならない。

最後に、これらの考察をまとめ、患者が受け入れやすい治療法を勧めるには臨床的専門知識が必要である。

いずれの状況においても、患者の臨床状態および状況が優先される可能性がある。例えば、僻地滞在間に胸の痛みを覚える人は、アセチルサリチル酸が唯一の有効な治療薬であれば、これを飲まざるを得ないかもしれないが、より大きなコミュニティ(都会?)では、より多くの治療法がある(一硝酸イソソルビドやニトログリセリン舌下、テープ剤等)。その他の例としては、過去に命にかかわる出血を経験した人のうち、輸血に対し批判的な宗教的信念を持っている人は、代替手段(医療)しか受け入れない可能性が高い。

る。さらに同研究において、ワーファリンまたはアスピリンによる(脳卒中予防に伴う)有害事象の出血に対して、一般的に患者は医療者よりも嫌悪感を示さないことが報告されている。

状況によって、患者によって(意思)決定は異なる可能性があるという概念は、ますます注目されている。しかし意思決定に影響を及ぼすファクターについて、正しいバランスを取ることは必ずしも容易では無い。実際、患者にエビデンスを提供することで、患者が情報選択することは挑戦的であり、多くの場合、医師-患者間のコミュニケーションにおける現状認識を超えている。最大の課題は新たなエビデンス生成を待つことである。

EBM という用語は、臨床家と患者が意思決定を下す際に現在の最善のエビデンスにとどまることなく、敬意を払うことへの奨励のために開発された。代替用語としては、(より魅力的なものがあるかもしれないが)臨床研究で強化したヘルスケアです。どちらの用語が適用されても、特に患者の希望が考慮されている場合は、臨床での実践においてエビデンスのより良い利用に自信を持つことができる。

⌘ コメント

個々の医療従事者が認識している、あるいは耳にしたことのある臨床試験の結果は極々一部であり、また目の前の患者に完全に当てはまる背景となると皆無に近い。

個々の医療従事者が論文を読むことに加え、患者の嗜好を考慮し、患者の置かれた環境、過去の臨床試験を用い総合的に判断することで、現状もっとも良いであろうと考えられる治療内容の提案、実施が可能ではなかろうか。そこには患者の理解度も重要であり、患者個々に合わせた平易な言葉が求められる。もちろんコンコーダンスという概念に従うのも良いと思う。

新薬ありきではない医療、コストベネフィットやコストパフォーマンスが日本でも注目され、昨年には HTA も導入されました。ここを好機と捉え行動するか現状維持のまま行くのかは個々の判断によります。ただ少なくとも、巷に出回ってるガイドラインの中には不適切なものもあることを知って欲しいし、妄信するのではなく『あくまで推奨』であると捉えて欲しい。

情報は日々アップデートされ、今読んでいる本、ガイドライン、論文は、すでに過去のものであるという研究結果もあるので、こちらについてもブログにアップしていきたいと思います。

私としては、エビデンスは心の拠り所であるとする考えが今のところ一番しっくりくる。

⌘ EBMという言葉がなくなる!?

ちなみに 2017年、アメリカ CDCの正式文書に使用禁止ワード 7つが指定された。EBMは別の言葉に置き換わるかもしれない。例えば decision making with community standards and wishesとか(※公式見解ではありません)。

  1. vulnerable
  2. entitlement
  3. diversity
  4. transgender
  5. fetus
  6. evidence-based
  7. science-based



 

処方提案するときに心がけていることは何ですか?

⌘ はじめに

本題に入る前にコトバと現象について触れておきたい。

私が当たり前と考えていることをコトバにしたい。

ある現象をコトバで説明しようとするときに各々、個々人の頭で考えている

そんなの当たり前だ!と言われそうだがココが重要なのである。

コトバを発しているのが個人なのだから、そのコトバを形成しているのも個人ということだ。

これを踏まえた上で処方提案というコトバを考えていきたい。

⌘『処方提案』 と 処方『提案』

同じコトバだが私が恣意的に鉤括弧をつけることで見え方、捉え方が変わったのではなかろうか。

ちなみに私の捉え方は後者なので、後者の視点で書かせていただく。

あくまで『提案』なのだ。

どんなに良いと思える臨床試験の結果も、こと処方提案においては個人が恣意的に結果を切り取っている可能性が高いからである。

また臨床試験の参加者のバックグラウンドに全てが合致する患者さんも、目の前にほとんどいないのではなかろうか。

つまり自分が良いと思う、あるいは興味がある方向に提案内容が引っ張られてしまうのだ。

これまた当たり前だ!と言われればその通りなのだが、ここを前提に提案内容を吟味できるかが医師や患者さんと良好な関係を保つのに必要であると考えている。

⌘ 処方提案の流れ

これらを踏まえた上で私が実践している処方提案の流れを以下に記す。

ちなみに最初は必ず文書で処方提案し、その後、必要な際に電話しています(今のところ対面はないです汗)。

①患者さんの直近の状態と愁訴をまず示す

②愁訴の原因(となっている可能性の高い)薬を示す

③代替薬を示す、あるいは中止してみてはどうかと促す

④『必要があれば』エビデンスとなる文献情報を示す

⑤介入後、患者さんが病院を受診する前に薬局に来た場合は、そこで得られた情報をすぐ処方医と共有する

⑥継続的フォローはもちろん、変化があればすぐ処方医と情報共有する

 

またまた当たり前のことですね。でも、この当たり前のことが『かかりつけ薬剤師制度』が導入される前は難しかった。

ちなみに、これも当たり前ですが医師の処方内容を否定しません。なぜなら現行の医療行為を根底から覆せる明確なエビデンスはないと考えているからです。

⌘ ただ粛々と曖昧な医療を少しでも良さそうな方向へ

そうそう、私は処方提案したうちの10%でも受け入れて貰えれば良いなぐらいに考えてます。まずパイプを作り、徐々に介入していければ良いなと思っています(患者さんの愁訴が重い場合は急ぎますし、羅列するエビデンスの量も増えますが、、、)。

まぁ、たいてい医師が思い切った判断をすることが多く、さらには、こちらが提案したこと以上の処方変更をしてくれることが多く、驚かされていますが。

医療は曖昧であり、曖昧なまま受け入れ、その曖昧な中から選択するしかありません。

もちろん治療介入せず経過観察するというのも選択肢の1つです。

そして最終的な判断は患者さんにあるなとも考えています。

処方内容や既往歴等から、処方提案をしたいなと思うこともありますが、患者さんが『今の薬で症状が安定している。この薬で私は普通の生活ができている』と現状維持で良いと判断しているならば介入する必要は無いのでは?(ここは意見が分かれるところだと思います)

以上です。批判的意見もあるとは思いますが、ご容赦いただけますと幸いです。

 

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海外のデータを日本人に当てはめて良いですか?

⌘ 背景

Evidence-Based Medicine(EBM)を実践しようと論文を読み始めたときに、ふと『海外のデータばかりだな、日本人に活用できるのかな?』と思った。

そんなとき私の尊敬しているある先生の言葉にいたく感銘を受けた。

 

以下、一部抜粋。

⌘ 海外データはそのまま日本人に使えない?

『質問者は海外データはそのまま日本人に使えない、ということを主張したいのでしょうか。それに対し私に何の反論もありません。その通りだと思います』

『しかし、ことさら人種差を持ち出すというところに違和感があります。人種差は個人差の一要素に過ぎません。男女でも違いますし年齢でも違います。細かい病態も個人個人で違います。その一要素として人種を考慮することは重要です』

『ただ、真っ先に人種差を問題にするというのはどうなんでしょうか。それは biasなのではないでしょうか。そう言いたいわけです。これをもう少し一般化すると情報の外的妥当性の吟味ということです』

『そもそも研究結果は研究に参加した平均的な人たちに対するものであって、個別の患者に適応する際には日本人のデータであろうが海外のデータであろうが個別的な適応、つまり外的妥当性があるデータなのか検討する必要があります。人種の問題は、そういう当たり前の問題にすぎません』

『エビデンスは、しょせん目の前の患者とは異なる集団での平均値に過ぎないのです』

⌘ 人種間のばらつきは、人種内のばらつきに比べればかなり小さい

人種間のばらつきは、人種内のばらつきに比べればかなり小さいというのが普通です。人種をことさら問題にするのは、こうした視点で考えてもナンセンスです』

⌘ コメント

いかがでしょうか。この言葉に触れた時からEBMの Step4の実施が肝であるなと考えています。

自分で自分のことを決定できる患者は少ないと思います。現時点における最良の意思決定の一助となれるよう論文を継続して読むことが肝要ではないでしょうか。

より良い、少しでも良い治療選択のためにエビデンスを活用し、患者と話し、医師と相談し、decision makingしていきたいと思います。

 

 

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ピロリ菌の除菌治療は3剤より4剤の方が良いですか?(Lancet 2016; Charge)

前回の記事に続きピロリ関連の文献を紹介します。2016年 Lancet 誌に掲載された以下の論文です。

Concomitant, bismuth quadruple, and 14-day triple therapy in the first-line treatment of Helicobacter pylori: a multicentre, open-label, randomised trial.

Liou JM et al.
(PMID: 27769562)

⌘ PICO

P:ピロリ菌陽性*)の 1620 人(20 歳超の男女)

I :ビスマス 4 剤療法、10 日間

 (2クエン酸ビスマス3カリウム 300 mg、1 日 4 回

  +  テトラサイクリン 500 mg、1 日 4 回

  + ランソプラゾール 30 mg、1 日 2 回

  + メトロにダゾール 500 mg、1 日 3 回)

C:3 剤療法、14 日間、1 日 2 回服用

 (ランソプラゾール 30 mg

  + アモキシシリン 1 g

  + クラリスロマイシン 500 mg)

     

  併用療法、10 日間、1 日 2 回服用

 (3剤療法 + メトロニダゾール 500 mg)

O:Primary — 1 次治療終了 6 週間後の呼気検査における除菌率

    Secondary — 有害事象とコンプライアンスの程度

 

*)迅速ウレアーゼ試験、組織学的、血液培養または血清検査のうち 2 つ以上の試験で陽性を示したか、尿素呼気テストで 13C 尿素値が陽性

⌘ 結論

従来の3剤療法に比べ、ビスマスを加えた4剤療法の方がピロリ菌の除菌率は高い。

 


⌘ 論文の批判的吟味

研究デザインは?ランダム化されているか?

▶️ランダム化比較試験。割り付けは封筒法(もちろん透けてないよね?)

 

ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

▶️隠蔽化されている

「the  sequence  was  concealed  in  an opaque envelope until the intervention was assigned.」との記載有り

 

マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

▶️オープンラベルである。アウトカムからみてブラインドで行う有益性は低い

 

プライマリーアウトカムは真か?

▶️代用あるいは代理アウトカムであるが、除菌率を検討したいので読み進める(胃がん発生や死亡と比べると代理アウトカムの分類であるが、従来治療との比較という目的においては真であると判断した)

 

交絡因子は網羅的に検討されているか?

▶️大項目で 18 因子について検討されているため問題ないと考えられる:性別、年齢、喫煙、飲酒、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、CYP2C19 低代謝群 (PM)、BMI、体重、23S rRNA 変異(クラリスロマイシン耐性株で変異していることが多い)、GyrA 変異(ニューキノロン耐性株)、クラリスロマイシン耐性、メトロダゾール耐性、アモキシシリン耐性、レボフロキサシン耐性、テトラサイクリン耐性、Hピロリ陽性(血液検査、ウレアーゼ試験、組織診断、培養、尿素呼気試験)、胃体部の萎縮

 

Baseline は同等か?

▶️同等である

 

ITT 解析されているか?

▶️ITT 解析および per protocol 解析を実施

 

脱落はどのくらいか?

▶️Primary outcome において、どの群も追跡率は 80% を越えている

問題無し

 

サンプルサイズは充分か?

▶️計算されており問題無し(事前検討で 400 あれば良いとの計算なので多い)

「a statistical power of 80% (1–β) at an α level of 5% significance on a two-sided test」と記載有り

 

結果は?

Primary outcome:

▶️ビスマス 4 剤療法群の除菌率は 90.4%(488 例/540 例、95%信頼区間[CI]:87.6~92.6)で最も高かった。

▶️次いで併用療法群で 85.9%(464 例/540 例、同:82.7~88.6)。

▶️最後に、従来の 3 剤療法群は 83.7%(452 例/540 例、同:80.4~86.6)と一番低かった。

 

ビスマス 4 剤療法群の除菌率は、3 剤療法群に比べ有意に高率だった(群間差:6.7%、95%CI:2.7~10.7、p=0.001)。

 

一方、併用療法群との比較では有意な差は認められなかった。また、併用療法群と 3 剤療法群との比較でも有意差はなかった。

 

Secondary outcome:
有害事象発生率は、ビスマス4剤療法群が67%、併用療法群が58%、3剤療法群が47%だった。

⌘ 考察

以前の臨床試験では、日本を含むほとんどの国で抗生物質に対する感受性検査が行われておらず、結果の一般化はある地域に限定されていた。
本ランダム化比較試験では、抗生物質への耐性や CYP2C19 多型、さらに細菌毒性因子(CagA および VacA)等、ピロリ菌除菌に影響を及ぼす可能性のある因子を広範に評価していた。従って人種差も含め genetic な背景の影響は少ないと考えられる。特にピロリ菌の感染はアジア圏に多いことが知られているので、本結果は日本人にも充分に活用できると個人的には考えています。

但し、現在の日本の状況に当てはまるかは、もう少し考察が必要であると考えられます。特に薬剤の用量や投与期間は日本のレジメンと異なっています。また2次アウトカムではありますが、ビスマス追加により副作用の発生率が絶対差で20%増えてしまいます(vs. 従来の 3剤療法)。

ですので、次回は日本でのピロリ菌除菌(→準備中です)について紹介いたします。

 




 

Up-To-Date Evidence of DPP-4 inhibitors(Last UpDated: OCT 14th, 2017)

⌘ 背景・目的

経口血糖降下薬である DiPeptidyl Peptidase-4 inhibitors(DPP-4阻害薬)のオマリグリプチン(マリゼブ®️)の非劣性ランダム化比較試験の結果が発表された(2017年)。これまでに発表されているアログリプチン(ネシーナ®️)サキサグリプチン(オングリザ®️)、そしてシタグリプチン(グラクティブ®️、ジャヌビア®️)の結果も併せまとめておく。なお、プライマリーアウトカムが 3-point MACEを設定している試験のみを抽出。

⌘ 疑問

DPP-4阻害薬は 2型糖尿病患者における心血管アウトカムの発生を抑制できるか。

⌘ 結果

表1. DPP-4阻害薬のリスク・ベネフィット各論文より作成 — プライマリーアウトカムは 3-point MACEである心血管イベントのみ)

 

⌘ 各試験の文献一覧

▶️アログリプチン – EXAMINE

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23992602

▶️サキサグリプチン – SAVOR-TIMI53

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23992601

▶️シタグリプチン – TECOS

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=26052984

▶️オマリグリプチン – 固有試験名無し

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28893244

▶️EXAMINEのサブグループ解析 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25765696

 

⌘ コメント

倫理的観点から非劣性試験ばかりである。またプライマリーアウトカムである心血管イベントにおいて、プラセボ薬に対する非劣性は証明されたが優越性は示されていない。しかしメタ解析では心血管イベント発生に対する抑制効果が示唆されているものもある(→準備中です)。

血糖降下作用は、インスリンやスルホニル尿素系薬に比べマイルド。そのため単独使用では低血糖症状をほぼ引き起こさないようだ。

FDAやEMAから課せられた課題はクリアしている。しかし真のアウトカムへの効果は不明。あとは誰に使うのか、真の課題は薬剤使用の個別化であろう。




検査キットがインフルエンザを診断する?いいえ、医師が診断します(厚生労働省ホームページより)

⌘ 背景・疑問

インフルエンザの季節になると、患者さんは必ずと言っていいほど、「インフルエンザの検査をして欲しい」と言います。

なかには「検査してもらえなかったのに薬だけだされた」と、オセルタミビル(タミフル®︎)とアセトアミノフェン(カロナール®︎)が処方され『???』となっている方がいます。

インフルエンザの診断に検査キットは必須なのでしょうか?

 

 

⌘ 結論

本ブログのタイトルの通りです。診断は医師が行います。決して検査キットが決めるのではありません。

 

 

⌘ 根拠

理由は大きく分けて2つありますが今回は、そのうちの1つをご紹介します。

 

▶️厚生労働省のホームページ「政策について」の項にインフルエンザの記載があります。

これによると、医師及び獣医師はインフルエンザ患者と診断した場合、『法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない』とされています。

そして届出の基準として以下の記載があります。

 

▶️症状や所見からインフルエンザが疑われ、かつ、表.1のすべてを満たすか、表.1のすべてを満たさなくても表.2を満たすことにより、インフルエンザ患者と診断。

 

表.1:届出のために必要な臨床症状(4つすべてを満たすもの)

突然の発熱
高熱
上気道炎症状
全身倦怠感等の全身症状

 

表.2:届出のために必要な検査所見

検査方法: 迅速診断キットによる病原体の抗原の検出
検査材料:  鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液

 

▶️つまり、検査キットは必須ではありません。また上記の4徴候が認められなくとも今後、症状が悪化しインフルエンザの兆候を示しそうな場合、医師はインフルエンザと診断します。

 

▶️いかがでしょうか。少なくとも検査キットが必須でないことは国が示しています。ただ私個人としては「〇〇が言っているから、そのようにしましょう」というのは、あまり好きではありません。もう一つの理由については、今後ブログで紹介していきます。

 

-Evidence never tells you what to do-




 

情報リテラシーとは?(アメリカ図書館協会; 1989)

情報リテラシーの定義は、1989年にアメリカ図書館協会が発表した最終報告書に記載されています。以下原文を一部翻訳。

情報リテラシーとは?

個人が「情報を必要とするときに、必要な情報を効果的に探し出し、評価し、使用する能力」を身につけるための能力のセットである。

 

▶️情報リテラシーは、急速な技術変化と情報資源の爆発的発展を遂げている現代において、益々重要になっている。この環境がさらに複雑化するにつれて、個人は、学術研究、職場、個人生活において、多様で豊富な情報の選択に直面している。

 

▶️情報は図書館、地域社会のリソース、特別利益団体、メディア、インターネットを通じて入手可能であり、情報はフィルタリングされていない形式で個人に提供されているため、真正性、妥当性、信頼性について疑問を投げかけられている。さらに情報は、グラフィカル、聴覚、およびテキストを含む複数の媒体を通じて入手可能であり、個人がそれを評価し、理解する際に新たな課題をもたらす。

 

情報リテラシーを学ぶとどうなる?

▶️不確実な品質と情報量の増大は、社会にとって大きな課題となっている。情報を効果的に使用するために必要な補完的な能力がなければ、つまり膨大な量の情報の入手だけでは、より情報に価値を見出す市民は生まれにくい。 情報リテラシーは、生涯学習の基礎を形成する。すべての分野、すべての学習環境、あらゆるレベルの教育に共通している。学習者はコンテンツをマスターし、調査を拡張し、より自主的になり、自分の学習をより強力に制御することができる。情報リテラシーを身につけた個人は以下6つのことが可能である:

①必要な情報の程度を決定する

②必要な情報に効果的かつ効率的にアクセスする

③情報とそのソースを批判的に評価する

④選択した情報をナレッジベースに組み込む

⑤情報を効果的に使用して特定の目的を達成する

⑥情報の使用を取り巻く経済的、法的、社会的問題を理解し、倫理的かつ合法的に情報にアクセスし使用する

 


原文(英語)

以下、原文の一部

Information Literacy Defined

Information literacy is a set of abilities requiring individuals to “recognize when information is needed and have the ability to locate, evaluate, and use effectively the needed information.” 1 Information literacy also is increasingly important in the contemporary environment of rapid technological change and proliferating information resources. Because of the escalating complexity of this environment, individuals are faced with diverse, abundant information choices–in their academic studies, in the workplace, and in their personal lives. Information is available through libraries, community resources, special interest organizations, media, and the Internet–and increasingly, information comes to individuals in unfiltered formats, raising questions about its authenticity, validity, and reliability. In addition, information is available through multiple media, including graphical, aural, and textual, and these pose new challenges for individuals in evaluating and understanding it. The uncertain quality and expanding quantity of information pose large challenges for society. The sheer abundance of information will not in itself create a more informed citizenry without a complementary cluster of abilities necessary to use information effectively.

Information literacy forms the basis for lifelong learning. It is common to all disciplines, to all learning environments, and to all levels of education. It enables learners to master content and extend their investigations, become more self-directed, and assume greater control over their own learning. An information literate individual is able to:

  • Determine the extent of information needed
  • Access the needed information effectively and efficiently
  • Evaluate information and its sources critically
  • Incorporate selected information into one’s knowledge base
  • Use information effectively to accomplish a specific purpose
  • Understand the economic, legal, and social issues surrounding the use of information, and access and use information ethically and legally

参考文献

1) http://www.ala.org/acrl/publications/whitepapers/presidential   — Last access date is 20171201.