【症例検討】ピロリ菌除菌後のGERD発生率はどのくらいですか?

ピロリ菌除菌後の胃食道逆流症は本当に存在するのか?

背景

ある日、ピロリ菌除菌の患者さんが薬局を訪れた。処方内容は以下の通り;

Rp 1) ボノサップ®️パック — 11シート 朝夕食後 7日分

Rp 2) タケプロン®️OD15mg — 11 夕食後 21日分 ボノサップ服用終了後より開始

目的

ピロリ菌の一次除菌および除菌後の胃食道逆流症(GastroEsophageal Reflux Disease: GERD)予防の処方であると考えられる。ここでピロリ菌除菌後のGERDはどのくらい発生するのだろうか?という疑問がわいた。周りにきいてみると「10%ぐらいだったような」という、やや曖昧な回答。

そこで、

①どのくらいGERDが発生するのか?

②ピロリ菌除菌でGERD症状が緩和できるのか?

これら2点について明らかにするために論文検索を行った。

結果

下記の論文4報がみつかった。試験結果を抜粋。

(東京大学消化器内科と亀田総合病院附属幕張クリニックの共同研究。施設としては亀田総合病院附属幕張クリニックのみ)

論文の結果:

日本人10,837例のうち、

逆流性食道炎(Reflux Esophagitis: RE)は733人(6.8)、

Non-Erosive Reflux DiseaseNERD)は1,722人(15.9

と診断された(GERDとしては2,455人、全体の22.7%)。

REの場合、男性(standardized coefficients, SC =0.557, OR =1.75)、ピロリ菌非感染(SC =0.552, OR =1.74)、ペプシノーゲンI / II比高値(SC =0.496, OR =1.64)、BMI高値(SC =0.464, OR =1.60、アルコール摂取(SC =0.161, OR =1.17)、高齢(SC =0.148, OR =1.16)、喫煙(SC =0.129, OR =1.14)は正の相関係数だった。

NERDの場合、ピロリ菌感染(SC =0.106, OR =1.11)、女性(SC =0.099, OR =1.10)、若年(SC =0.099, OR =1.10)、ペプシノゲンI / II比高値(SC =0.099, OR =1.10)、喫煙 SC =0.080, OR =1.08)、BMI高値(SC =0.078, OR =1.08)、アルコール摂取(SC =0.076, OR =1.08)は正の相関係数であった。

慢性的なピロリ菌感染患者とピロリ菌除菌患者におけるREの有病率は、有意差(2.3 および 8.8; p <0.0001)を示したが、NERDについては差がなかった(18.2 および 20.8; p = 0.064)。

標準化回帰係数(standardized regression coefficient: SECあるいはSC)とは、回帰係数に独立変数と従属変数の標準偏差の比を掛け合わせたもの。標準偏差を1に調整した場合に、独立変数が1点増えることが従属変数を何点増やすことになるのかを表す指標。つまり全ての変数の単位をそろえることで 、各独立変数の効果を比較できる指標。

論文2Effect of Helicobacter pylori treatment on gastroesophageal reflux disease (GERD): meta-analysis of randomized controlled trials.

Saad AM et al.

Scand J Gastroenterol. 2012 Feb;47(2):129-35.

PMID: 22229305

論文の結果:

10件の試験が包含基準を満たした。 2群間の症候性GERDOR =0.81, 95CI 0.561.17, P =0.27)または逆流性食道炎の内視鏡的検討(OR =1.13, 0.721.78, P= 0.59)では統計学的に有意な効果は認められなかった

サブグループ分析の結果では、ピロリ菌除菌群(13.8%)は非除菌群(24.9%)と比較して、GERD症状が統計学的に有意に低かった(OR =0.55, 95CI 0.350.87, P =0.01 ファネルプロットについては問題なく、パブリケーションバイアスは認められなかった。

論文3Effects of Helicobacter pylori eradication on gastroesophageal reflux disease.

Qian B et al.

Helicobacter. 2011 Aug;16(4):255-65.

PMID: 21762264

論文の結果:

11件の研究が包含基準を満たし、メタ分析に含まれました。 フォローアップ期間、場所、またはベースライン疾患にかかわらず、ピロリ菌除菌を行った患者と感染が持続している患者との間に、症候性または内視鏡的にびらん性GERDの頻度を検討していたが、結果に有意差はなかった(症候性GERDOR =0.88, 95%CI 0.631.23, I=19.9%)。

論文4Is there an increased risk of GERD after Helicobacter pylori eradication?: a meta-analysis.

Yaghoobi M et al.

Am J Gastroenterol. 2010 May;105(5):1007-13; quiz 1006, 1014.

PMID: 20087334

論文の結果:

論文271報のうち12報(RCT7報およびコホート5報)が解析に含まれた。

アウトカムにびらん性GERDを設定したRCT6件において、ピロリ菌除菌群 vs. ピロリ菌感染の胃炎群におけるGERD頻度のORは、1.1195%CI 0.811.53, P =0.52, I=31.4%)であった。

症候性アウトカムを設定したRCT5件において、ピロリ菌除菌群 vs. ピロリ菌感染の胃炎群におけるGERD頻度のOR1.220.891.69, P =0.22, I=31.4%)であった。

コホート研究では、ピロリ菌除菌群 vs. ピロリ菌感染の胃炎群におけるGERD頻度のOR1.370.892.12, P = 0.15, I=34.9%)であった。

異質性試験については、いずれの分析においても有意ではなかった。

上記の結果はサブグループ解析(コホート研究 vs. RCT、高品質研究 vs. 低品質研究、内視鏡 vs. 消化性潰瘍疾患(Peptic Ulcer Disease: PUD)患者を除いた症候性アウトカム)および感度分析の結果と一致していた(コホート研究4件の統合結果においては、OR =2.04, 1.083.85, P =0.03, I=5.5%)。


コメント

・日本人10,837例を対象にした研究では、逆流性食道炎は733人(6.8)、NERD1,722人(15.9であり、GERDとしては2,455人と、全体の22.7%を占めていた。割と多いなという印象を受けた。もしかしたら海外より罹患率は高いのかもしれない。

・ピロリ菌除菌後のGERDについては、非除菌群と比較して差は認められなかったという報告がやや多かった。そのため海外、特にアメリカでは、ピロリ菌除菌後のGERD発生リスク上昇はない、あるいはGERD症状があったとしても一時的なものであり胃酸分泌抑制薬を使用するほどではない、と考えられているようです(聞いた話ですのでエビデンスなしです。エビデンスお持ちの方はご教示願います!)。

・今回の論文について研究数及び症例数が少ないこと、メタ分析において統合された結果の異質性がやや高いことについては研究の限界として覚えておきたいところ。

・コホート研究4件の統合結果において、ピロリ菌除菌によってGERD発生リスク(オッズ比)が2倍程度に上がっていたことが非常に興味深かった。

・またピロリ菌除菌は、症候性GERDや逆流性食道炎のリスク増加に寄与していなかったが、GERD症状を優位に減少させた。さらに日本人においては、単施設での検討だがピロリ菌除菌により、逆流性食道炎の症状緩和が示唆された。

・内視鏡的に潰瘍や炎症症状を呈している患者については、ピロリ菌除菌することで益があるかもしれない。しかしピロリ菌除菌後に、胃酸分泌抑を抑制するプロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor: PPI)がどの程度必要なのかについては明らかにできなかった。

・除菌後からPPIを飲むことについては、一様に一般化するのではなく、患者毎に検討してみるのはいかがでしょうか。今回の症例については、以前から胃酸がこみ上げたり胸焼け症状があったので、薬を使っで良いのかな、という印象。


まとめ

①どのくらいGERDが発生するのか?

日本人を対象とした研究では、22.7%RE6.8NERD15.9。ただしピロリ菌除菌によるリスク増加は示されなかった。

ピロリ菌除菌によるGERD発生頻度は変わらないという報告と増えるという報告の両方あったが、どちらもバラツキが大きかった。

②ピロリ菌除菌でGERD症状が緩和できるのか?

ピロリ菌除菌により、GERD症状が緩和したという報告があった。日本人においては、ピロリ菌除菌により逆流性食道炎の発生リスク低下が示唆された。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です